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醤油の知識

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コラム

新桶で初めて搾った醤油

2012.09.08

「新桶初搾り」の話の前に、
ちょっと前置きをさせてください。

桶で醤油づくりをしている蔵には、悩み事がたくさんあります。
それはもう山のようにあるのですが、
代表的なものの一つに「修繕」があります。

  ● 中身の諸味(もろみ)が漏れてしまった・・・
  ● 周囲を囲む竹の箍(たが)を直したい・・・

ただ、修繕できる職人はごくごく限られています。
全国を探してもわずか数人程。

これは実際の桶です。

製作途中の様子なのですが、
大きさでいえば比較的小さい方です。

それでも、人が持ち上げるには
大きすぎるサイズなのでこのように運びます。

これは醤油蔵の様子。

醤油が発酵熟成の時を過ごしているのですが、
なんともいえない独特の雰囲気があるんです。

桶に住み着く微生物が、夏場にはプクプクと発酵の音を奏で、
冬場にはじっと身を潜めて静寂に包まれます。

プラスチック製のタンクの方が、
コストも安いし管理も効率的に行えることも事実。

ただ、「それでも桶がいい!」という造り手がいます。

ここは瀬戸内海にある小豆島。
醤油蔵が密集していて「醤の郷」ともいわれる醤油の産地です。

その地にあるヤマロク醤油さんが、
桶に並々ならぬ愛情と情熱を傾けている蔵元です。

ご主人の山本康夫さん。

個人的にも大好きな蔵人さんなのですが、
目指すところは非常にシンプルです。


孫 の 世 代 に 桶 仕 込 み 醤 油 を 残 す 。


今ある桶でなら自分の代は大丈夫だけど、
子供・孫の世代のことを考えると
今から準備をしないといけない。

桶は100年以上は使えますが200年を越えることはないといわれています。
ということは、
1)孫の世代が使えるように、新しい桶を使い始めることと
2)桶の修繕の方法を確保しておくこと
3)そして、さらにその次の世代が使う桶を作る方法を確保しておくこと

2012年1月

大阪の堺市にある藤井製桶所に
山本さんの姿はありました。

数少ない桶師の作業場。
日本各地の桶仕込みをしている醤油蔵・味噌蔵が
こちらのお世話になっています。

地元の大工さんを連れて
自分たちで桶の修繕ができるように、
その技術を学びにきたのです。

そして、将来的には桶づくりを手がけられるように!

箍(たが)を編む作業は見て分かったつもりでも、
いざやっているみと全然うまくいきません。

本当に難しいんです。

職人が手がけると竹は踊るようにしなやかなのですが、
素人がすると弾力のある鋼鉄に変わってしまいます。

大切なのは腕力ではないんですね・・・
ただ、そう分かっていても上手くいかないのでもどかしくなります。

大桶を組む作業はチーム作業。
どんなに頑張っても一人ではできません。

ここでも四人の息をぴったりと合わせないといけません。
竹の箍(たが)をハンマーを使って打ち込んでいくのですが、
四人で同時に打たないとうまい具合に入っていきません。

「トン・トン」とリズムをとって、最後に「ドン!」
この「ドン!」が綺麗に重なるとすっと下がる感触を感じます。

2泊3日の桶合宿でなんとか1本完成。

桶に使われる税料は木と竹と縄くらいのもの。
鉄のクギは一本も使わずに大量の水分を受け入れるのですから、
知るほどに桶は不思議な存在に感じます。

この桶は今頃(2012年9月)、ヤマロク醤油に運ばれて
仕込みの時を待っているはずです。

この桶で仕込んだ醤油を味わえるのは2年か3年後 ・ ・ ・





少し時間を戻して2009年10月。
実は、山本さんの計画はここからスタートしていました。

新桶の購入です。

16石桶が7本到着したのですが、これは本当に驚くべきこと。

今の時代に「桶での仕込みをやめた」という話は聞いても、
新桶を買うことは非常に珍しいことです。

桶師の上芝さんも
「そうそうあることじゃないね!それも7本同時にだからね。」といいます。

まだ、日本人の日常生活に桶が欠かせなかった時代。

あらゆる場面に桶が使われていた時には、
醤油を仕込む大桶はリサイクル品だったといいます。

日本酒の造り酒屋が新桶を使って、
数年後に桶師の元に戻されて仕える板を再び組み合わせて再生。
そして、醤油蔵や味噌蔵に運ばれていく。

そんなリサイクルの仕組みが確立されていたそうです。

ただ、日本酒が桶で仕込まれることが激減してこの流れはなくなっています。
その意味でも醤油蔵が新桶を買うことは珍しいのです。

2010年4月に仕込まれて初めて諸味を抱え込んだ桶は
これから百年以上は使われていくであろう最初の一年目を踏み出しました。

そして、2年以上の時間が流れます。

桶から諸味が運びだされて圧搾の工程へ移動します。
搾られた醤油は再び仕込み工程に戻されて「鶴醤」を造るために使われて、
さらに数年の時間を過ごして、贅沢な醤油になる予定です。

ただ、新桶で仕込んだ醤油を味わう機会は最初の一回しかなく、
次のチャンスは早くても数年後。

またとない機会なので、数量限定で商品化が決定。

出来栄えを伺うと、
思った以上に色が淡くて美味しい。
従来商品の鶴醤・菊醤とも違う味なので比べてみてください!とのこと。

ヤマロク醤油さんからのちょっと珍しいおすそ分けをご紹介します。

ヤマロク醤油 新桶初搾り 100ml

仕込み日:2010年4月9日
圧搾日:2012年8月

国産丸大豆(福井県産エンレイ)
国産小麦(北海道産ホクシン)
天日塩

天然醸造にて2年以上の長期熟成です。
新桶仕込みと名乗れるのは初回だけとなりますので、
無くなり次第終了となります。

この文章を書いた人

高橋 万太郎

職人醤油 代表。2006年に職人醤油の取り組みをスタートし、
これまでに訪問した醤油蔵は全国400以上。(株)伝統デザイン工房 代表取締役。
ブログ : http://www.mantaro.jp/

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