醤油の知識

010|麹室(3)

今回、麹室を作るわけですが一口に麹室と言っても、麹の種類や製麹量によって構造や機能は多種多様です。私の知る限り醤油麹の場合、大きく2つのカテゴリーに分かれると思います。 

・一つは麹蓋や大きめの箱蓋などで、麹を薄く盛って培養する方法。 
・もう一つは、広く大きな槽に麹を厚く堆積して、麹の内部へ向けて通風できる構造の室。 

と、かなりざっくりですがこのように二分されると思います。しかし実際のところ、現在醤油を仕込まれている所のほとんどが後者だと思います。それは清酒や味噌の仕込みが 「麹+蒸し米(清酒)・蒸煮大豆(味噌)」 であるのに対し、醤油は穀物原料である大豆・小麦をすべて麹にします。 

具体的に言うと、清酒を仕込む米の全量が1000kgだとしたら、麹にするのはそのうちの200kgつまり2割が麹で、8割は掛米(蒸し米)です。(一般的に) 

醤油の場合、大豆・小麦を合わせて1000kgだとしたら1000kgすべてを麹にします。つまり必要な麹の量が多いので、省スペースで操作をなるべく簡略化する必要があるのです。そして、醤油麹は清酒で使う米麹や味噌の米麹・麦麹と比較して麹の水分が高く、製麹中の発熱量が圧倒的に多いので、温度上昇を制御することがとても難しいのです。 

また、タンパク質分解酵素の生産には製麹後半25℃付近の温度帯で管理するのが理想とされているので、なおさら現代の醤油造りでは通風機能が必須であると言えます。 

今回、どんな麹室を作るかという話をするはずが、前置きが長くなりましたが、うちの室は「前者の方」つまり内部通風のなどの機能の無い麹室です。 

なぜ、そうしたか? それはまた、後日書きます。 

城 慶典 (ミツル醤油醸造元)

1984年生まれの醤油職人。
高校生の時に自社での醤油醸造の復活を志して東京農業大学 醸造科学科に入学。入学後、「学校に通っているだけでは自分の求めるものは得られない。」ということに気づき、伝統的製法による醤油造りを続けられている醤油蔵を探し、卒業までに7つの醤油蔵で短期間の研修を受け入れて頂く。卒業後、岡本醤油醸造場にて一年間の研修。その後、JFCS(ジャパン・フードコーディネーター・スクール)で一年間学び2009年6月より、実家であるミツル醤油へ入社。2009年11月 夢である醤油造りの復活と、地元・糸島を全国に発信したい。という思いをリンクさせ具現化する、社内別ブランド「itosima terroir」(イトシマ テロワール)をスタート。

ミツル醤油醸造元