吉野杉の魅力を探る①:木桶職人が語る良材の条件
木の勉強をするために奈良県吉野町に行ってきた
「よい木材とは何か?」と聞かれると、即答するのは難しいかもしれません。ただ、木桶職人たちは口を揃えて「吉野杉は素晴らしい!」と言っているのを何度も耳にしていました。
液体を仕込む木桶にとって「漏れ」は大敵です。その要因の一つとして、木材の「節」がありますが、節は木が成長する過程で幹の中に取り込まれた枝の跡であるため、自然の素材である限り発生してしまいます。でも、吉野の材は節が少ないというのです。
吉野川の源流である川上村へ
奈良県の吉野中央木材の石橋輝一さんに案内をいただくと、「せっかくなので、川上村の山に行きましょう」と、製材団地から吉野川沿いを上って車で40分ほどの山の中へ。吉野林業地域は川上村、東吉野村、黒滝村の3つの地域から構成されていて、川上村は吉野川の源流に位置する村だそうです。
吉野杉の特徴は「密植多間伐」
くねくねした細い道をひたすら進んでいくと、急な斜面、そこに等間隔に杉が整然と並ぶ光景が広がっていました。吉野杉の特徴は「密植多間伐」。間隔を狭くたくさん植えると、自らの生存のために太陽を求めて上に上にと伸びていきます。そして、適切なタイミングで間伐して密度を調整するという仕組みです。これを数十年から百年を超える時間軸で行っていきます。
「1ヘクタールに10,000本程を植えます。他の地域の3~4倍の量になると思います。そして、杉の場合は日の当たらない部分の枝は勝手に落ちるので、人が枝打ちをする必要がないんですよ」と石橋さん。確かに、地表に近い部分には枝がほとんど見られません。
酒樽の最高級材として発展
吉野林業の歴史は500年以上前の室町時代にはじまります。当時、この地域を支配していた豊臣秀吉が大阪城や伏見城の建設に吉野の天然木を使用したそうです。その後、伐採された天然林の代わりに植林が行われ、先人たちの試行錯誤の末、日本を代表する人工林の産地として発展してきました。
そして、江戸時代、吉野材は酒樽用の材として発展します。吉野杉の木香が酒にいい香りをつけると、酒樽の最高級材として日本酒の産地である灘や伏見に大量に出荷されていたそうです。いい樽材とは「節がなく、目が細かく、まっすぐ」な材。密植多間伐によってまさにこのような木材を100年以上の時間をかけてつくっている産地です。