003│お客さまが教えてくれたたまりやのこと

こんにちは。
岐阜のたまり屋、山川醸造の山川華奈子です。

今月末で、わたしが山川醸造で働き始めて丸8年になります。
今日はその頃のことを少し振り返って、わたしの原点になっているお客さまとのエピソードを書きたいと思います。

山川醸造で働き始めたころ、わたしは醸造の知識も経験もまったくない状態でした。そんなころ、ふと調べた政府統計の家計調査を調べてみて愕然としました。2001年から2018年対比で家庭での醤油の消費量は45.58%もダウンしていたのです。これではきっと、いずれ自分が店を畳むことになるのかもしれないな。そんな不安を抱えたまま働いていたことを今でもよく覚えています。

そんなある日、店舗に醤油を買いに来てくださったお客様が、こんな話をしてくださったんです。

「わたしね、この醤油、嫁に来てからもうずっと、50年も使っとるんやよ。これやないとね、あかんのやわ。」

当時、まだ製造には一切かかわっていなかったわたしですが、この言葉は胸に深くささりました。50年という時間の長さはもちろんですが、初めて会う店員のわたしにこの蔵のことを知ってほしいと思ってくださるくらい山川醸造の醤油のことを好きでいてくださるんじゃないかなと感じたからです。

この方が50年使い続けてくださった醤油を、決してなくしてはいけない。日常の当たり前を、これからも当たり前に届けていく仕事なんだ。その言葉から感じた気づきが、わたしの視点を大きく変え、不安で曇っていた気持ちを晴らしてくれました。

あれから8年。たまりのこと、発酵のこと、製造や営業、会社を続けていくこと──毎日が学びと試行錯誤の連続です。大変なこともありますが、それ以上に楽しく、誇りを持って向き合えるのは、あの日のお客様の言葉がずっと背中を押し続けてくれているからだと思います。