醤油とスーパーマーケット

醤油が並ぶ当たり前の光景

いま、日本で「醤油が並んでいないスーパーマーケット」を探すことは、ほぼ不可能だと思います。調味料売り場の棚には、メーカーも容量も価格帯も異なる多種多様な醤油が並び、私たちはごく自然に、その中から一本を選んでいます。

しかし、この「当たり前の光景」は、実はそれほど古いものではありません。スーパーマーケットの誕生と拡大は、醤油の流通の形そのものを、大きく変えてきたともいえると思います。

スーパーマーケット以前の醤油の買い方

スーパーマーケットが一般化する以前、日本の買い物の中心は、商店街や専門店を回ることでした。魚屋、八百屋、米屋、酒屋といった専門店で、必要なものを対面で購入する。醤油も、もちろん例外ではありません。醤油屋が直接販売をしているケースもあれば、地域によっては酒販店が醤油や味噌を扱っているケースも多かったようです。

また、醤油屋や酒販店が「御用聞き」スタイルで配達をしていたケースも多く、定期的に家庭をまわって注文を取りつつ配達&使用済みのビンの回収を行っていました。今でも九州などの地域では、醤油屋の名前が入ったトラックが家々をまわっている事例があります。常連客には「いつもの味」を届ける関係性ができていて、この時代の醤油は、「棚から選ぶ商品」というより、顔の見える相手から買う生活必需品だったと言えます。

スーパーマーケットの登場が変えた「買い物の仕方」

1950年代後半から60年代にかけて、日本でもスーパーマーケットが広がり始めます。この新しい業態がもたらした最大の変化は、セルフサービスでした。商品は棚に並び、消費者が自分で選ぶ。価格も一目で比較できる。

この仕組みは、醤油のあり方にも大きな影響を与えます。「届けてもらう商品」から「自分で持ち帰る商品」になったことで、まず進んだのが、小容量化です。従来主流だった一升瓶は、重く、割れやすく、持ち帰りに不向きでした。家庭の核家族化も進む中で、500ml、1Lといった扱いやすいサイズが求められるようになります。さらに、容器の変化も起きます。ガラス瓶から、軽くて割れにくいペットボトルへ。スーパーマーケットの棚に並べやすく、家庭でも扱いやすい容器へと、移行していきました。

チラシと特売が生んだ「価格競争」

スーパーマーケットの拡大とともに、もう一つ大きな存在感を持ったのが、新聞の折り込みチラシです。現代の感覚では信じられないかもしれませんが、「目玉商品」として醤油が掲載されると、びっくりするくらい人が来た、という話を聞いたことがあります。

当時、醤油は生活必需品でありつつ、高級品でもありました。醤油が安いとなれば集客ができる。そうした理由から、醤油は客寄せパンダ的な商品だったようです。スーパーの側からすると、安く仕入れたい。そのために大量に仕入れることができる。醤油メーカーの側からすると、安い醤油が求められている、しかもたくさん買ってくれる。となると、大量生産へとシフトしていく。棚の面積は限られています。そのため、こうした条件に対応できた醤油メーカーが棚に並ぶ。このサイクルに、流通全体が入っていったと言えると思います。

いま、もう一度「選ぶ」という行為へ

現在、スーパーマーケットの棚に並ぶ醤油は、かつてよりも種類が増えたように見えます。しかし、その背景には、スーパーマーケットという流通の仕組みが、醤油をどう変えてきたのかという長い歴史があります。

かつては、「誰から買うか」「どの蔵の味か」が、自然に意識されていた醤油。スーパーマーケットの時代を経て、いま再び「自分で選ぶ」醤油へと、関心が戻り始めているように感じています。