一麹、ニ櫂、三火入れ
一麹(いちこうじ)、ニ櫂(にかい)、三火入れ(さんひいれ)
醤油づくりにおいて重要な工程を表現した言い方です。醤油のつくり手に「醤油づくりで大切なことは?」と質問すると、大抵はこのフレーズが返ってくると思います。
一麹は、その表現通りで麹づくり。大豆や小麦に麹菌を繁殖をさせる工程です。二櫂は諸味の管理工程で、攪拌というかき混ぜる作業に櫂棒を使っていたことからの由来です。そして、三火入れは圧搾後の醤油に熱をかける工程で、微生物や酵素を失活させ、醤油特有の香りを引き出す作業になります。

一麹は最初にして最重要工程
一麹は麹づくり。蒸した大豆と炒った小麦に麹菌を繁殖させる工程です。大豆の蒸し加減に加えて、麹菌が繁殖するのに適した環境を整えるのが難しく、3日ほどかけて行われます。この麹の出来栄えによってうま味や香りの良し悪しが決まってくるので、最初にしてとても重要な工程となります。
百戦錬磨の職人でも、麹づくりは難しいと話します。何年やっても正解にたどり着かないという表現をしていて、突き詰めれば突き詰めるほど、もっとよい麹をつくる余地が見えてくる。ただ、だからこそ、よい麹ができると至福の気分になるそうです。
参考:醤油の麹づくり
https://s-shoyu.com/knowledge/0504/

ニ櫂(にかい)は諸味をかき混ぜる攪拌のこと
諸味の管理工程です。麹に塩水を混ぜたものは諸味(もろみ)とよばれ、この状態で半年から数年の発酵と熟成の期間を過ごすことになります。諸味をかき混ぜることを攪拌(かくはん)といって、昔は櫂棒(かいぼう/長い棒)で行っていたことに由来します。
攪拌をすることで白カビ(産膜酵母)を抑制して、微生物が必要とする空気を送り込みます。ただ、かきまぜなくても、かきまぜすぎてもダメ。その年の気温だったり、雨の多い地域/湿気の少ない地域など、蔵の周辺環境にも左右されます。その時々の諸味の様子を観察して、適切に管理をすることが大切とされています。
参考:醤油の諸味
https://s-shoyu.com/knowledge/0505/
参考:櫂棒(かいぼう)
https://s-shoyu.com/knowledge/1136/

三火入れ(さんひいれ)は搾った醤油に熱を加える工程
圧搾して液体になった醤油、ビン詰めをする前に熱を加える工程があります。乳酸菌や酵母菌といった微生物を失活させて活動をストップさせることや、分解されなかったたんぱく質をオリとして固めるなどの目的がありますが、火香とよばれる香りをつけることも大きな目的とされています。
焼とうもろこしや焼き鳥をイメージしていただくと分かりやすいと思いますが、醤油に熱を加えることでアミノカルボニル反応によって香ばしい香りがたってきます。温度や時間の調整など微妙な違いが味を左右するもので職人の腕の見せ所。そのレシピは門外不出のものとして守っている蔵元もあります。
参考:火入れ
https://s-shoyu.com/knowledge/0507/

どの工程が最も大切か?
「どの工程が一番大切ですか?」と、つくり手に質問すると「麹」という答えが多いように感じています。よい麹ができるとよい酵素が生み出され、大豆や小麦が効率よく分解されます。結果的に「櫂」の工程である諸味の管理もスムーズにいくというものです。
あるつくり手は「醤油づくりは引き算」だといいます。原料の段階を100点として次の工程で失敗があると減点されて、また次の工程で減点される・・・というもの。一度減点されると加点のチャンスはないので、小さな減点が命取りになってしまうというものです。
確かに麹づくりは大切な工程だと思います。ただ、諸味の期間が最も長く時間を過ごす工程で、つくり手の性格が管理方法に表れ、それが醤油の味わいにつながってくると感じています。(几帳面なつくり手は、管理も几帳面になるように)
そして、火入れも突き詰めていくと、85度なのか、86度なのかで異なってくると言い、一度、低温で長時間火入れをしてから、最後に一瞬高温にするんだよ、と試行錯誤を重ねているつくり手もいます。どれもが大切で、奥深い製造工程だと感じています。