醤油の知識

醤油の諸味

一番長い時間を過ごす諸味期間

麹に塩水を混ぜたものが諸味で、醤油づくりにおいて一番長い時間を過ごすのがこの工程です。見た目は水分の多い味噌のような状態。仕込んだ直後は大豆や小麦の形を確認できますが、時間が経つと溶けて色もしだいに濃くなっていきます。

この発酵熟成の期間は半年程度から長いものだと3年余り。その間は、攪拌(かくはん)というかき混ぜる作業を定期的に行い、乳酸菌や酵母菌などの微生物が働きやすい環境を整えます。地域や蔵元によって攪拌の頻度は異なり、醤油の個性をつくる要因の一つになります。

汲み水

麹に塩水を加えたものが諸味ですが、この塩水を汲み水(くみみず)といい、麹の量に対する数字をつけて表現されることがあります。例えば、「12水」とは、原料容量(大豆・小麦から作った麹の量)に対して1.2倍の塩水を用いて仕込まれるという意味です。

多いとサラサラ、少ないとドロドロ

通常の濃口醤油では汲水は11~13水が一般的とされています。 量が多ければ液体に近いサラサラな状態になり、少なければドロドロの状態となります。汲み水が少ないと成分の濃い醤油になりますが、原料の溶解利用率が低くなり粕歩合は高くなります。原料のうま味成分が完全に溶け切らないわけです。

蔵元によっても違いがあります

逆に、汲み水を増やすと生産効率は向上しますが、全体的な成分は低くなります。どのような醤油をつくりたいかによって、汲み水の量をどうするかを決めるので、ここでも蔵元による違いになります。

乳酸菌

仕込みから1~2か月で対塩性乳酸菌が急速に増殖して乳酸発酵がはじまります。糖の一部を様々な有機酸に変えることで、爽やかな酸味と味の伸びや深みが生まれます。しだいに諸味のpHが下がって酸性になると酵母菌が活躍しやすい環境になります。

酵母菌

乳酸発酵によってpHが5.5以下に低下すると対塩性の酵母菌が増殖します。でんぷんが分解されたブドウ糖を元に主発酵酵母がアルコールを生み出します。そして、乳酸菌が生んだ有機酸と化学反応をして複雑な香りをつくりだします。

主発酵酵母の活動が落ち着くと熟成期に入って後熟酵母が増えてきます。後熟酵母はゆっくりと活動して小麦の皮の成分から熟成香に分類される燻製のような香りを出して風味に深みを与えます。これには1年以上の熟成が必要といわれます。

→醤油づくりの微生物(麹菌・乳酸菌・酵母菌)

桶とタンク

諸味を保管する容器による違いもあります。大手メーカーは大型のタンクを使用することが多く諸味の温度をコントロールすることができる仕様になっています。年間を通して一定の品質の醤油を効率的につくることができます。一方で、昔ながらの桶を使用する場合は、何年もの時間を過ごす中で桶に微生物が住み着き、その蔵元独特の味わいをつくりだすことができます。

→木桶とタンクの違い