なぜ醤油だったのか

消去法で選んだのが醤油でした

正直に言うと、特別に醤油が好きだったわけではありません。思い入れもなかったというか、ほぼ意識せず醤油を使っていた、普通の家庭育ちでした。

ではなぜ醤油だったのかを考えると、消去法に近いのが実際のところです。

日本全国を貧乏旅行していた2006年、出会う人たちが業界を問わず同じことを言っていました。「よいものを作っている自信はある。でも売れないんだよね」と。理由を聞くと「大手や海外製品にコストで勝てない」という答えが返ってきます。この話は昨日も書きましたが、ここから商材を絞り込む作業が始まりました。

当時、販路もツテも何もありませんでした。だからまず、一つに絞る必要があるなと考えていました。

日本酒、お茶、陶器、蝋燭……300ほどリストアップして、そこから絞っていきました。

賞味期限が短い食品系は、販路がない状態ではリスクが大きそうだ。また、仏壇のような高単価で買い替え頻度が低いものは、そもそも売るのが大変そう。そして、しっくりきたのが、大量生産品とそうでないものを、消費者がほとんど意識せずに買っている、という基準でした。その視点で探っていくと、お茶や醤油といった発酵食品が残りました。

最後の決め手は、母の話でした

私が大学1年生のとき、実家の母から電話がありました。「インターネットで買いたいものがあるんだけど、クレジットカードの番号を入力しても大丈夫かな」と。パソコンを操作している母の姿も驚きでしたが、「何を買うの?」と聞くと、醤油だと言います。自宅のカーテンを替えてくれた業者さんからいただいた醤油がとてもおいしかったけど、近所のスーパーには売っていない。「インターネットなら買えるよ」と教えてもらい、恐る恐る操作していたのだそうです。

これほどまでに人を動かす力があるのか、と。日常的に使う調味料を、わざわざネットで探してまで買う。その行動の裏側に、何か可能性があるのではないか。それが醤油だった理由の、ほぼすべてです。

そこから醤油蔵に飛び込んでいき、ひたすら訪問を繰り返し、蔵人の話を聞いていく中で、醤油に対する見方がガラッと変わっていくのでした。