初対面で怒鳴られた蔵元に、泊めてもらった。(足立醸造)

「俺は忙しいんだよ!何度も言っているだろう!」

初対面の第一声が、これでした。ほんとうに、これだったんです。

兵庫県の山あいにある足立醸造さん。蔵巡りを始めて1年目か2年目、私が27歳のときの話です。同じ兵庫の末廣醤油さんで「行ってみるといい」と紹介していただき、その足で車で1時間ちょっと。着いたのは午後3時を過ぎた頃でした。ここで見学できなければ、次に移動しても夕方になり、その日の予定が終わってしまう。何としてでも中を見たい、という状況でした。

おかみさんの電話

まず大通り沿いにある店舗へ。対応してくれたおかみさんに「群馬から来たのですが、工場見学をさせていただけませんか」とお願いすると、「ちょっと聞いてみるわね」と、歩いて1分ほどの工場へ電話をかけてくれました。

返ってきたのは「今日はちょっと忙しくて対応できないみたい」。やんわりとしたお断りです。でも、このまま引き下がることもできなくて、「…実は、このあと予定はないのですが、待っていれば見せていただくことは…」。また電話。「今日は作業が詰まっているみたいで」。「少しだけでも、だめでしょうか……」。また電話——。

おかみさんと、当時の社長である足立達明さんとの間で、何往復かやり取りが続き、おそらく、達明さんも面倒になったのだと思います。「とにかく来させろ」。工場までの道順を教わり、とことこ歩いて工場へ。対面した瞬間に返ってきたのが、冒頭の怒鳴り声だったというわけです。

「これ、NK缶ですね」

「やばっ、本気で怒ってる」と内心思いながら、呆然と立っていると、「お前若いな。何歳だ?」と聞かれ、「27歳です」と答えると、「珍しいな」と。そして「しょうがない、ちょっと案内してやるよ」。

当時すでに30軒以上の蔵元を訪ねていたので、製法も設備も、なんとなくは分かります。大豆を蒸す機械を指して「これ、NK缶ですね」と言うと、「ほー、よく知ってるな」。そこから空気がガラッと変わりました。マシンガントークが始まり、気づけば1時間、2時間。忙しいとあれだけ言っていたのに、ずっと話をしてくれました。

朝6時の電話

それから1ヶ月ほどして、朝6時に電話が鳴りました。「今度、関西のメンバーが集まる会があるだろ、来るのか?」。「行きたいんですけど、行っていいんですかね?」と聞くと、「じゃあ、ホテル取っとくから来いよ」という流れに。その次、3回目にお邪魔したときには、「じゃあ、うちに泊まっていけ」。翌朝9時に徳島で約束があると話すと、「朝6時にうちを出れば間に合うだろう」。確かにそうだ。

初対面で怒鳴られたのも初めてなら、その後あれほど面倒を見ていただいたのも初めてでした。今は、息子の裕(ゆたか)さんと学(まなぶ)さんが中心となって蔵を支えています。お二人との話は、また別の機会に書こうと思います。

2026.0707

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