八方だしは、駐車場のカツオと昆布から。

「何ですか?これ?」

小豆島の正金醤油さんを訪ねたとき、蔵の前の駐車場に、何かがずらりと干してありました。「何ですか?」と尋ねると、出汁を取り終えたあとのカツオと昆布だ、とのこと。人気商品「八方だし」の出汁を、原料から自分たちで引いているのだそうです。

一から出汁を引くということ

だし醤油やめんつゆをつくる蔵元は多いのですが、原料から直接出汁を引くところは、思いのほか少ないように感じます。一から取るのは、それだけで相当な手間。原材料をそろえ、煮出す設備を整え、人の手をかけ、煮終わったカツオや昆布を片づける。工程の一つひとつに、時間と人手がかかります。

それでも、岩手の佐々長醸造さんなど、つゆで名の挙がる蔵はベースからしっかり出汁を引いている気がします。比べてみると、風味の違いははっきり。お客様の反応からも、その違いは伝わってきます。

階段に敷かれた、白いタオル

そこまで手間をかけているのだから、もっと自慢していいはず。でも、正金醤油四代目・藤井泰人さんは、そうしません。「つくり手の性格が、そのまま味に出る」とよく言われますが、藤井さんからは、まさにそうだと感じます。

木桶が百本以上並ぶ蔵は、驚くほど綺麗に保たれています。そして、桶へ上がる階段の一段ごとに、白いタオルが敷いてある。その理由は、「2階の蔵を汚したくないので、靴の裏を綺麗にしておきたくて」と。ごくごく自然にそうしている方です。

謙虚で控えめ、そんな言葉がぴったりな藤井さんは、八方だしのことも多くは語りません。でも、そんな姿勢そのままに、自らは主張せずにしっかりと素材を引き立てる、それでいて出汁の風味がしっかり香る。そんな「八方だし」。そうめんの季節になると、そんな藤井さんを思い出します。

2026.07.09

八方だし 360ml(正金醤油・¥615)
駐車場いっぱいのカツオと昆布から引いた出汁を、そのまま一本に。そうめんのつゆはもちろん、煮物の下味にも——藤井さんの手間が、夏の台所に効きます。
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佐々長醸造 つゆ 100ml(¥540)
岩手・佐々長さんのつゆ。まずは100mlで、今年のそうめんを少しだけ格上げしてみる。
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