同じ品質の醤油をつくるのが当たり前とされてきた業界

「日本酒の蔵元はいいな」

醤油メーカーの方と話していると、ふとそんな言葉を耳にすることがあります。どうしてですか?と質問をすると、「日本酒は自己主張していいじゃないか」と。醤油は素材を引き立てる縁の下の力持ちだから、主張しすぎちゃダメだ——というのです。

「もっと醤油も主張していいじゃないですか」と返すと、こんな昔話を聞きました。流通がまだ盛んでなかった頃、それぞれの土地に醤油蔵、味噌蔵、酒屋があって、地域でつくって、地域に販売していた時代のことです。醤油も自然がつくる発酵調味料ですから、原材料の出来具合、四季の気温変化——条件は毎年、様々です。当然、その年によって出来栄えは変わってきます。「今年はよい醤油ができた」と喜んで地元の飲食店に持っていくと、怒られてしまうのだそうです。

変わらないことへの信頼

料理人にはそれぞれのレシピがあります。醤油の味わいが変われば、レシピそのものを微調整しなくてはならない。だから飲食店にとっては、いつも同じ品質を届けてくれることこそがありがたい。「いいのができたから」と規格の違うものを持ってこられても、正直、困ってしまうわけです。

そうして「常に同じ品質で出す」ことが、醤油業界の暗黙のルールのようになっていったのだと思います。いい出来の年も、塩水で薄めたり複数をブレンドしたりして、いつもの規格に合わせる。それが当たり前。

この話をすると、「そのまま出せばいいのに」「ワインのように今年はこういう出来です、と言えばいいのに」という消費者の声が聞こえてきそうです。確かに、そういう醤油を望む人が増えているのも感じますし、その年ならではの味を表現していこうとする若いつくり手も、少しずつ出てきているように感じます。

2026.08.09