醤油のためだけの、贅沢な旅
往復だけで帰る人
少し前に、広島県の岡本醤油醸造場を訪れたときのことです。海外の方が、蔵見学に来ていました。岡本醤油のある大崎上島は瀬戸内海の島で、橋が架かっていません。行き来は船だけ。その方は、ちょうど私と同じフェリーに乗っていました。珍しいなと思っていたら、まっすぐ岡本さんのところへ入っていく。そして見学が終わると、そのままフェリーで帰っていきました。
以前の日記でも触れましたが、大崎上島はみかんや造船で知られた島。昔は観光のついでに蔵見学へ立ち寄る方がほとんどだったのが、最近は岡本醤油をめがけて訪ねてくる方が増えているそうです。わざわざ醤油蔵を訪ねる旅。観光名所をめぐる旅とは、少し違う。そういう旅のかたちが、静かに増えている——そんな気配を感じます。
三ヶ月の寄り道
そういえば、職人醤油を立ち上げる前、サラリーマンをやめて、全国のものづくりの現場や宿場町を三ヶ月ほどかけて訪ね歩いたことがあります。広く見て回って、得たものはとても大きく、結果として醤油に絞っていくことができました。ただ、いま思うと、テーマが広かった分、見え方が広く浅くなっていたのも事実です。
そこから醤油だけに絞って蔵元を訪ねるようになると、入ってくる情報の質がまるで変わりました。狭く、深く。醤油蔵ばかりを回っていると、自然と、蔵どうしの比較ができるようになります。「これは、ほかの蔵では見なかったな」。そう思って質問すると、まさにそこがその蔵のオリジナルだったりする。テーマを狭くして各地をまわってみると、また違った見え方ができるような気がしています。
2026.09.12

