甘い醤油のヒントは、蕎麦屋の雑誌にあった
メモがびっしりのノート
福島県相馬市にある山形屋商店の渡辺和夫さんは、農林水産大臣賞を何度も受賞されている方。そして、「火入れ」に並々ならぬ情熱を傾ける一人です。工場見学をさせていただいたとき、びっしり書き込まれたノートを抱えている姿が印象に残っています。温度を何度まで上げるか。1度上げるのに10分かけることもあるのだとか。
福島県は、甘い醤油が好まれる地域でもあります。甘い醤油といえば九州の醤油が有名ですが、好まれる地域は意外と広い。そして、甘味の元になる砂糖、ブドウ糖、水飴、みりん、ステビアや甘草、何をどう溶かし込むかで個性が表れます。
多くは火入れのときに一緒に混ぜるのですが、どの温度帯で、どんな順番で入れるかは、蔵ごとにほとんど企業秘密です。けど、渡辺さんは惜しげもなく教えてくれる。そこが渡辺さんらしいところです。
蕎麦屋で開いた雑誌
その教えてもらった話のひとつに、新しい試みがあります。きっかけは、相馬の冬の寒さ。寒い時期は糖類の粘度が高くなって、溶けにくく、扱いにくい。どうしようかと考えていたときに蕎麦屋で雑誌を開くと、「かえし」について書いてあったそうです。蕎麦つゆのもとになる、醤油に甘みを合わせたものです。
これは使えそうだと感じて、応用してみると、香りが際立って、深みが出た。直感で、いけると思ったそうです。
その後は蕎麦屋さんに直接話を聞きながら、糖類の組み合わせと配合を探っていく。蕎麦屋はざらめを使うけど、醤油には何がいいのか。納得のいくものになるまで、およそ1年かけたそうです。
かえしは80度まで上げて、自然に冷ます。そこから1週間寝かせると、カドがとれる。だから、火入れの準備は1週間前から始まるのだとか。試行錯誤とはこういうことなんだなと、渡辺さんの姿を見ていると感じます。
2026.10.15

