013│発酵って、わからないなぁ
ここ数年、木桶職人復活プロジェクトで年に何度も全国の醤油屋さんと顔を合わせています。あんまりにしょっちゅう会うので、製造機器のことだったり、温暖化対策だったり、お互いに困っていることを相談し合う仲です。
一昨年から昨年にかけて、わたしがいろんな蔵元さんによく聞いていたのが「櫂入れ」についてでした。
櫂入れとは、醤油のもろみを混ぜる作業のこと。重石をのせて仕込むたまり醤油ではこれができないため、山川醸造では「汲みかけ(1枚目の写真)」というまったく違う方法でもろみの手入れをしています。
ずっと口伝で教わってきた「うちのたまりの造り方はこれ」という方法。でも、どのタイミングで、どう手入れをすると、もろみにどんな影響があるのか。本で読んでもいまいちピンとこない、その部分に興味がありまして。

人や蔵によって考え方がそれぞれで、聞いてみると結構面白いんです。でも、わたしの造っているたまりとは材料も手入れ方法も違うので、そのまま置き換えて考えることもできません。 もらった情報を自分なりにかみ砕きながら、目の前のもろみと対峙していました。
醤油のもろみは気温が高くなると、「産膜酵母」という膜が表面に出てきます。醤油の香りを悪くするといわれていて、どう付き合うといいのか長年悩んでいました。
そこで昨年、いろんな蔵元さんから聞いた話を参考に、「うちのやり方」とはちょっと違う管理方法を2通り、いくつかの桶で試してみました。冷房のない蔵の中、汗をだらだら流しながら実験的に世話をしていました。一度目の夏を越えたころ、そのうち一つがめちゃくちゃいい香りになったんです。

フルーティーで華やかな香り。桶の上で一人感動して、そこからいろんなアイデアが湧いてきて。イベントでお客様に試食していただいたり、プレ販売してみたり。味は「たまり」と認めるにはまだまだ。でも、醤油としてはいい線いってるんじゃないかな。この方法がよさそうだ。
なんて思っていたのは、今年の春まででした。
二度目の夏を越えるころ、華やかだった桶の香りから華やかさがなくなっていました。悪いわけではないんです。でも、想像していた軌跡をたどってくれませんでした。
ところが、もう一つ別の方法を試していた桶が、今度はめちゃくちゃいい香りになっている。香ばしく甘みのある、たまりらしいのに癖のない香りです。
ああ、そうきたか!
なんて難しいんだろ。でも、みなさんの言葉を思い返してみると説明がつくんですよね。「そうですね、こういうことでしょうね」と話してくださりそうな、水谷優太さんや片上厚滋さんの顔が頭に浮かびました。
発酵って難しい。でも、すごく面白い。まだまだ経験が圧倒的に足りないなと改めて感じました。
ちなみに、今年の冬~春に仕込んだ桶たちはどちらの方法で試しているかというと……どちらでもありません。
今年はどうにも去年ほど暑く感じず、産膜酵母の出方も全然違いました。気になってChatGPTに聞いてみたら、実際に去年より少し涼しかったみたいです。
というわけで、今年はまた新たなデータがとれることになったわけですが……この桶たちは来年どうなっているんでしょうね。
2026.09.24
