「ついでに寄る醤油蔵」が、「めがけて来る醤油蔵」に変わった

「木桶なんて時代遅れだと思っていました」

先日、動画のインタビューでそう話してくれたのは、広島県の大崎上島にある岡本醤油醸造場の岡本康史さん。ところがいざ自分で仕込みはじめると、「木桶じゃなきゃダメだ」と気づいた――と続きました。

大崎上島は、本州の竹原から三十分ほど、フェリーでしか渡れない島です。もともとは造船とみかんで知られた土地。昔は観光のついでに蔵見学に立ち寄っていく方がほとんどだったそうですが、最近は岡本醤油をめがけて来るお客さんが増えているそうです。

いちばん分厚いレジュメ

岡本さんとは催事でご一緒する機会が多いのですが、若い世代に負けずというより、むしろ若手以上に立ちっぱなしで、誰よりも長くお客さんと話し込んでいます。とにかく真剣。だから、自然と会話が長くなる。でも、お客さんは嫌な顔ひとつしないばかりか、むしろ、ぐっと引き込まれている。この独特な空間をつくる力は何なのだろうと、いつも不思議に思っています。

このあいだ阪神百貨店で仕込みのセミナーがあったのですが、おそらく資料がいちばん分厚いのは岡本さん。発酵や醸造の論文のような、専門的で少し難しい内容がびっしり並んでいます。学校の授業以上に授業っぽい。それでもお客さんがすごい勢いでメモを取っている。岡本さんも真剣。お客さんも真剣。こんな様子が、いかにも岡本さんらしい、です。

醤油の原材料は極力、地元の広島県産を使いたいと言う岡本さん。そこにも明確な理由がある。次世代への代替わりについても、はっきりとした考えをお持ちです。誠実に、真面目に、真剣に。どこまでも岡本さんらしい。木桶が時代遅れだと思っていた人が、誰よりも木桶を熱く語る人になっている。インタビュー動画もあるので、ぜひご覧ください。

2026.07.28