再仕込醤油とは何か ─「濃厚」だけでは語れない、1%の醤油

再仕込醤油は、一般的に「濃厚な醤油」「うま味が強い醤油」と説明されることが多いですが、実際にはそれだけでは語りきれない背景を持った醤油です。その成り立ちを紐解いていくと、単なる製法の違いではなく、流通、食文化、そして作り手と使い手の関係性が複雑に絡み合って生まれてきた存在であることが見えてきます。

そもそも再仕込醤油とは、一度搾った生揚醤油を仕込み水代わりに、再び仕込み直した醤油です。濃口醤油に比べて約2倍の原料と約2倍の期間を要する長期熟成タイプの醤油で、見た目にも濃厚な場合が多いです。全国の流通量は1%ほど。

▼ 2024年 国内出荷量
濃口醤油578,213kL(84.9%)
淡口醤油78,083kL(11.5%)
溜醤油14,018kL(2.0%)
再仕込醤油6,518kL(1.0%)
白醤油4,187kL(0.6%)
合計681,019kL

▼ 都道府県別出荷量
01 群馬 1,278kL
02 千葉 943kL
03 新潟 669kL
04 愛知 527kL
05 兵庫 415kL
06 埼玉 350kL
07 大分 327kL
08 福岡 274kL
09 佐賀 227kL
10 島根 168kL

*醤油情報センター/醤油の統計資料(2024年実績)

山口県の柳井と再仕込醤油の関係

再仕込醤油は「山口県柳井が発祥」と紹介されることが多いのですが、個人的には“ここが絶対に最初だ”と断言できるほどの確たる証拠は見つけにくい、と感じています。むしろ、再仕込醤油は、誰か一人の発明というより、ある土地の環境と商いの積み重ねのなかで、じわじわ形になっていった製法なのではないか。そんなふうに捉えています。

ただ、柳井が再仕込醤油(甘露醤油)の中心地として長く栄えたこと、そして、その醤油が名産品として流通していたことは、複数の資料からも読み取れます。

柳井では、その独特な製法をもつ醤油醸造業が、少なくとも18世紀後半まで遡るとされます。さらに昭和初期には全国各地だけでなく、満州・台湾へも出荷されるほどの名産品として扱われていたという記録もあります。
少なくとも早い時期から再仕込醤油が成立し、商品として強く流通していた地域だったとは言えるのだと思います。

再仕込醤油が生まれた背景は「港町の流通」にある

再仕込醤油がなぜ生まれたのか。その背景を考えるとき、やはり「流通」が大きな要因だったのではないかと思っています。

江戸時代の瀬戸内海は海運が黄金期。いわゆる潮待ち・風待ちの港が各所で栄えたそうです。船は風と潮を読みながら進むので、瀬戸内の港町には自然と人が集まり、モノが集まり、商いが生まれていったわけです。柳井は木綿、菜種油、和ろうそく、塩、しょうゆ、などの集積地として発展し、「岩国藩の御納戸(おなんど)」とよばれるように、経済の拠点・玄関口として特別な役割を担っていた地域でもあったようです。当時としても、再仕込醤油の製造コストは高かったはず。その高付加価値の醤油を成立させて、流通させる力と商圏を持っていたからだろうと想像しています。

再仕込醤油は1%。それでも各地で愛され続ける理由

再仕込醤油の流通量は全体の1%ほど。どこでも当たり前に売っている醤油というよりは、各地のメーカーが「こだわり醤油」として大切に手がけている──そんな印象を持っています。

醤油業界の分類としては「再仕込醤油」という種類に整理されますが、地域によって呼び名はさまざまです。例えば「甘露醤油」「二度仕込み醤油」、あるいは「さしみ醤油」として親しまれていることもあります。再仕込醤油を連想する地域としては、愛媛県や島根県など。甘味を付けたタイプをよく見かける印象があります。

一方で、大手メーカーが再仕込醤油を主力として大きく展開している例は、そこまで多くありません。その理由として考えられるのは、まず原材料コストが高く、さらに長期熟成を要する醤油であること。加えて、再仕込醤油の濃厚な味わいは、必ずしも万能タイプではありません。素材や料理によっては強すぎてしまうこともあり、大手メーカーが目指す「毎日使える一本」という方向性からは、少し外れる部分もあるのだと思います。

ただ、その中でも群馬県の正田醤油は、再仕込醤油を積極的に製造しているメーカーのひとつ。全体の生産量としても国内上位の規模を持つメーカーであるため、群馬県が再仕込醤油の生産量No1となっています。

なぜ、再仕込醤油をつくるのか

再仕込醤油は、原材料の量も、仕込みの手間も、熟成期間も、通常の濃口醤油の倍以上かかります。当然、コストも高くなります。それでも作り手が再仕込に挑む理由は、うま味の追求にあると思います。

醤油づくりにおいて、生産者が強く意識しているのは、「どれだけ原料を、うま味成分へと変換できたか」という点です。別の言い方をすると、大豆や小麦を、どれだけ“うま味”に変えられたか。これは「原材料の利用率」とも言い換えられます。

ただ、濃口醤油の製法だけで、そのうま味を突き詰めていくと、どうしても限界が見えてきます。そこで原料を2倍使い、仕込み水の代わりに醤油を使う再仕込製法によって、さらに高いうま味成分を持つ醤油が生まれる。つまり再仕込醤油は、濃口醤油の限界を超えようとした結果、生まれた醤油とも言えるのだと思います。

そして、もしその蔵元の周辺でとれる魚などの食材と相性がよければ、地元の方が「これはおいしい!」となる。そこで醤油が売れれば、醤油メーカーはより注力し、生産量が増えていく。そんなサイクルもあったのではないかと推測しています。